40代のシンデレラ

  おとぎ話の「シンデレラ」。
日々、過酷な仕事を強いられ、ハッピーエンドとわかっていても読む度に苦痛であった。
 子どもにせがまれて久しぶりに読み聞かせてみると、不思議なことにシンデレラが不幸に感じられなかった。なんというか、これって今の自分の毎日!?
 深夜まで仕事しても、早朝に起きて家族の朝食と弁当をつくり、パンをかじりながら洗濯物を干し、ぎりぎりの時間に家を出て小走りで電車に駆け込む。移動中に仕事のメールをこなし、ランチも採れないまま、仕事先から仕事先へ。夕方、またしても小走りで保育施設にお迎え。帰宅後は夕食の準備をしながら、サイドテーブルでPCを開け、思いついたら原稿を打つ。家族が寝静まった後の1~2時間が唯一、ゆっくり考え事ができるひとときだ。ディズニーアニメのシンデレラなら、ここで屋根裏のねずみたちがシンデレラを慰めてくれたりするのだろう。舞踏会ならぬ、飲み会もここ数年はほとんど行けずじまい。
 しかし、シンデレラとちがうところは、僅かながらも小銭があること。泣いていても魔法使いはやってこないので、ネットのセールでちょっと素敵なハイヒールの靴を“自分の稼ぎで買う”という自由がある。

「まもなく発車します、閉まるドアにご注意ください」と、駅のアナウンス。今日もまた、小走りの一日がはじまる。
「わ、階段でヒ―ルが片方脱げちゃった!」慌てる私の背後から、「落し物ですよ」と、靴を拾い上げ、やさしく声をかけてくれた人。
それは王子様ではなく、気のいいおばちゃんだった。

文・関千里 絵・田上千晶



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