東京ベランダ花鳥風月

ある朝、バルコニー越しに外の景色を眺めながらダイニングで朝食をとっていた。
ティーカップを手に顔を上げたら、なんと巨大な鷺と目が合った。
一瞬「ここどこだっけ? 旅先?」と、自分の所在が分からなくなった。
鷺はわが家のバルコニーの水槽で泳ぐ金魚を狙い、手すりにとまっていたのだ。
環境崩壊でエサを求めて山の動物が人里に降りてくる現象は、もはや東京も例外ではない。
ここ数年でマンション4階からの眺望は一変した。以前は民家の屋根と庭の緑の上に空が広がり、小さくても都内の花火が部屋から観覧できた。しかし、その空の隙間は新しいマンションビルの建設により、数カ月ごとに埋まっていって、ついに花火は音だけしか聞こえなくなった。子どもたちが「山びこ」ならぬ「ビルびこ」をやっている。


鳥が来るなら蝶も呼ぼうかと、食べていたミカンの種をプランターに蒔いてみた。数ヶ月後、数センチ育った苗に驚くほどの数の蝶たちがやって来た。それからというもの、毎年暖かい季節になるとわが家のバルコニーには毎日いろいろな蝶が舞っている。立ち並んだビルのさらに上から顔を出す、『東京スカイツリー』を背景に。失われた自然を取り戻すには相当な時間がかかる。しかし、自然は要素が整えば正直に応えてくれる。小さな自然を育てるのに“遅すぎる”ということはない。ひらひらと舞う蝶を眺めながらそう思った。

文・関千里 絵・田上千晶

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