過去の光

今、夜空に瞬いている星の光は過去の光。
数千年、数万年前の光が届くなんて、タイムマシンがなくても時空を超える感覚が味わえる。
スケールはぐっと小さくなるが、雑誌の仕事がまさにそれだと気がついた。月刊誌は3カ月前の世の中を想定して写真を撮影し、3カ月後に刊行する。編集者時代、まだ木々の葉が青いうちにクリスマスの撮影をしていたし、お正月は11月中に終わらせて、12月にはバレンタイン号をつくっていた。桜の特集に関しては1年前に名所を撮影しておいて、翌年の号に掲載する。読者が見ているのは1年前の桜の風景だ。これは業界だけの特殊な事情、と思っていたが、個人レベルでもっと上手がいた。先日、書家の母が自身の作品が掲載された冊子を見せてくれた。そこで、私はプロフィール写真に驚いた。「これ、いつ撮影した写真?」どう見ても、実物より10歳以上若い。母は「ふふふ」と余裕の笑み。「嘘はいけないよ」と、同席した姉も囁く。すると、母は「大丈夫よ。みんなそうだから」。そう言われて、冊子のページをめくり、書家仲間を見て絶句。そこには私が知る全員が10年以上前の笑顔で並んでいた。

文・関千里 絵・田上千晶




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