何もできない時間

リッチな友人の新居。ホテルのようなバスルームに高音質サウンドシステム搭載の32型テレビが設置されていた。ぬるめのお湯につかり、1時間ここで過ごすのが至福の時間だとか。「うらやましい!」自分なんてここ数年、ゆっくりと湯船につかることすらできていない。
思えば、子どもの頃からずっとお風呂は考えごとをするのにとてもいい場所であった。8人家族が暮らしていた実家。唯一ひとりで何もせずぼぉーっとできる時間。そう言えば、ずっと解けず頭の中にあった図形の問題が解けたのはお風呂だった。仕事で画期的なアイデアが浮かんだのもお風呂。私にとってお風呂の時間はひらめきの時間だった。お風呂でひらめくといえば、iPS細胞の山中伸弥さんもシャワーの途中で重大な研究アイデアがひらめいたそうだ。アルキメデスも入浴中に比重の原理を思いついたらしい。どうも脳は何もできない時間にこそ活発に働いてくれているようだ。何もしないでぼぉーっとする時間ってすごく大切な時間なのかもしれない。お風呂にテレビ、なくてもいいか。

 文・関千里 絵・田上千晶



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