ひとり飲みの嗜み

ひとりでお茶を飲む。ひとりでお酒を飲む。かつてはどうしても落ち着かなかった行為。かっこつけてひとりでバーに入店しても周りが気になって、どうしてもお酒そのものを楽しむことができない。仕事の合間に立ち寄ったカフェでもスマホや本を手にしていないと長居することが憚られる。それが最近、その落ち着かない行為が、実はかなり贅沢な行為であることを知った。会合の手段でないお酒、トークの添え物でないお茶は味も香りも自分を癒すために存在している。黙ってそれらをゆっくり味わうことで、自分と向き合う時間がじんわり生み出されていく。
お酒のおかげで、ふんわりと縛りがなくなった頭に、大胆な発想が湧き出ることがある。お茶によって心が落ち着き、冷静かつ俯瞰して発想を見直すことができる。「ひとり飲み」は最も贅沢な時間の使い方だったのだ。
不意の雨。駆け込んだカフェは同じ状況のお客で混み合っていた。空席を待ってやっと見つけたひとつの椅子に掛け、PCを開き、1時間かけて仕事を片付けていった。ふと視線を泳がせると、店内の2人用テーブルにゆったりひとり座る女性。彼女は1杯のお茶を前に何もせず、ただずっと降りしきる雨を眺めていた。1時間以上も。以前だったら、そんな人に少しイラッとしていたかもしれない。でも、今はこう思う。彼女はとても贅沢な時間を嗜んでいるんだと。
私はPCを閉じた。もう一杯お茶を頼もう。そして、何もせず、今度はその一杯を味わおうと。

文・関千里 絵・田上千晶


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