私が走る理由

今日も私は走っている。
ジョギングではない。またしても遅刻しそうなのだ。
数週間前、事故で指を骨折してしまった。初めての骨折。今まであまり関心のなかった骨についてあれこれ調べてみた。健康時、骨は「衝撃」を感知して新しい骨をつくるペースを決めているとのこと。走ったり、ジャンプしたりすることによる衝撃が新しい骨をつくり出すサインになっている。大昔、大地を走り、時にはジャンプして獲物を追った狩猟時代。人類はより活動的で元気に走り回ることができるものを生き残らせることによって種を繁栄させ、今に至っているのかもしれない。
骨の年齢は必ずしも実年齢と同じではないらしい。自分の骨年齢、驚愕する数値だったらどうしよう。日々の運動にはまったく自信がない。「衝撃のある運動」なんてまったくしてないよな。ただひとつだけ思い当たるのは毎日駅までの道のりを「遅刻だー」と、焦りながら走っていること。それは、仕事の資料が入った重い荷物と苛立ちを抱えながらのつらい時間だった。でも、今日からはちがう。遅刻しそうになってダッシュする直前、スタートラインに立って私は思う。「よし、これから骨をつくるぞ」と。
そして、今日も私は走っている。なぜか心がすがすがしい。

 文・関千里 絵・田上千晶



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