小さな宇宙を漂って

電車の中。スマホでゲームを楽しんでいる人がほんとうに多い。かなり混んでいる電車でも熱中している人がいて、密着せざるを得ない状況のため、意思に反してゲーム画面を覗かざる負えなくなる。が、いつの間にか熱中観戦。こともあろうに、降りるべき駅を乗り過ごすこと数回。
 そんな時、いつも頭に浮かぶイメージがある。それはケージのネズミが回し車の中で懸命に走っている姿。
 かつて、廃人とまではいかなくともゲームに熱中していた時期があった。どうしてもロールプレイングをクリアしたくて、3日3晩寝ずにゲームをやり続け、4日目にはついに会社を休んだ。会議に現れなかった私を心配して電話をくれた職場の先輩に「クリアのコツ」を聞き、さらにその翌朝、白々とした中で、エンディングを迎えた時は恍惚とし、神がかった気持ちに捉われた。憔悴し、朦朧とした私の意識は完全に異世界に飛んでいた。

その後、現実世界に戻った私はときどきこう思う――ゲームとは何か。それはきっと“ヒトが創った小さな宇宙”。現実の宇宙に暮らすのが重荷になったら、ちょっとだけ小さい宇宙にワープしてみたくなる。現実ではただの人でも、あちらの世界ではスーパーヒーローだ。攻略すれば幸せな結末が約束される"誰かが創った小宇宙”は居心地がいい。いっそのこと、頭の中だけ永久にあちらの世界に。と、思ってしまうのだが……。
 攻略できない、いや、もしかしたら攻略できるかもしれない現実の世界で戦うことこそ最高にエキサイティング。そして、エンディングはその時を迎えるまで誰にも分らない。

文・関千里 絵・田上千晶









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