禁断の一言

「まったく、今の人たちはねえ…」。若い頃によく聞いたこの一言。年配のおじちゃん、おばちゃんは「今日も暑いですね…」くらいな感覚で口にする。が、まさかこの言葉を自分の口から発する日が来るなんて想像できなかった。それと同じく「おばちゃんがやってあげるね」という一言。自分のことを「おばちゃん」と言う自分なんて考えられなかったのだ。「あなたは“おばちゃん”と言うべきだ」と、誰にも言われてないのに、自ら「おばちゃん」と名乗る必要なんてまったくないじゃない。この歳になってもそう思っている。
しかし、先日自分より一回り若く、しかも超美しいママ友が自ら「それはおばちゃんがやってあげるね」と、公園で遊ぶ子どもたちに手を差し伸べていた。「えっ!?」驚いた。若く美しいママが発する「おばちゃん」は私が勝手に分類していた「おばちゃん」とは何か違っていた。呆然としている私の前で偶然、通りがかった若者が空き缶をゴミ箱に乱暴に投げ捨てた。空き缶は的から外れ、若者は見ぬふりをして立ち去った。子どもたちの顔が曇り始める。「まったく、今の人はねえ…。おばちゃんが捨てるね」と、私は空き缶を拾いゴミ箱へ。なんと禁断の一言、2つセットで一気にデビューさせてしまった。かすかな喪失感があるが、なんだかサッパリした不思議な後味だった。


いや、禁断の一言。まだ究極のものがある。「あなたは若いから大丈夫ですよ」。これが言えたら立派な大人だろう。ああ、いつか、この言葉が自然に口から出る日が来るのだろうか…。

 文・関千里 絵・田上千晶






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