自分印デコ

「人が絆を求める時代に、刺繍が流行する」とは、ある刺繍作家の言葉。災害などで家族の絆を求めると人は刺繍をしたくなるとの見解だ。手芸が得意でなくても、ちょこっと刺繍や、ちょこっとデコはなかなか楽しい。シンプルな水筒にラインストーンを貼って、オリジナルの模様を作るだけで素敵なオンリーワン水筒になるし、波のようなシンプルなラインの刺繍を数本するだけで、雑巾もおしゃれなインテリアになる。調子に乗って、シャツやハンカチ、下着と、いろいろなものにワンポイント刺繍やデコを。自己満足だが心なしか暮らしの彩りが鮮やかになった気持ちがした。
ある風の強い日。うっかりバルコニーに洗濯物を干したままで外出。帰宅してみたらマンションの管理人さんが「あ、よかったよかった。風で洗濯物が飛ばされちゃって。これ、落ちてましたよ」と、透明ビニルにつつまれた白いものを差し出した。「しまった!」背筋に冷たいものが流れ、全身が硬直した。恐る恐るビニル袋を受け取ると、中には白いタオルが入っていた。水色で名前の刺繍がくっきりと。「いやあ、子どもん時になんでも名前をつけなさいって言われてたけど、持ち物に名前がついてるって、やっぱ役に立ちますねえ」と、管理人さん。下着でなくて本当によかった。と、心で叫び、私は安堵の笑みを浮かべながら噴き出た汗を刺繍がついたタオルで拭いた。

 文・関千里 絵・田上千晶







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