ほろ苦い学生時代 ②

タイムトラベル、タイムスリップ、タイムリープ……過去や未来を時間移動する映画は昔も今も大人気。10代の頃の私の心を捉えていたのは筒井康隆の『時をかける少女』。小説を読み、ラベンダーを見かけると「もしかして、未来に来ちゃった?」と、カレンダーを確認し、ソワソワしてみたりしていた。
 そんなある日の学校の帰り、部活を終えていつもの電車に乗っていた。ふと前の席のおじさんが読んでいる新聞の活字を目で追っていた。そして、ある数字に目が留まった。11日。それは新聞の日付だった。でも、今日は10日。慌てて手帳や学校で配られたプリントの日付を確認してみる。やっぱり今日は10日だ。ドクドクドクドク。心臓が高鳴り、頭がクラクラしてきた。「まさか…未来に…」。と、次の駅で乗ってきた別の乗客が手にしていた別の新聞を恐る恐る覗いてみる。驚いたことにそれも11日。明日の日付の新聞であった。
 「1日だけ未来に行っちゃった!?」。何をしても現実感がないままその日は終わった。その後、そのことは誰にも言わずに秘密にしておこう、自分はきっと特別な運命があるにちがいない。心の片隅でそんな自己陶酔的な気持ちをかみ締めながら大人になった。
 十数年後、会社員となった私はある日、競馬好きな同僚のデスクに置かれたスポーツ新聞を見て知ってしまった。夕刊紙は翌日の日付で発刊されるということを。
 その日から決意した。これからは“普通の人”として頑張って生きて行こうと。

  文・関千里 絵・田上千晶




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