いつかはない

健診を受けたクリニックから再検査要請。再検査の結果を待つ1ヶ月半の間、「もしかしたら…」と、あれこれ「この先の人生」に思いを巡らせる。数日後の先の生活が大きく変わるかもしれない、今やっておくべきことは何か、何を備えておくべきか、万が一の場合を考えると、片付けておかなくちゃいけないことが山盛りだ。頭の中が急に慌ただしくなったその時思った。この年齢では、人生でやってみたいことは「いつか」ではなく、今やらないと。「いつかはない」かもしれないのだ。いつも歩く道の景色をもっとよく見ておきたいし、出会った音楽も、料理もひとつひとつ噛み締めて味わおう。「いつも」が色濃く、愛おしく感じられるようになった。
再検査の結果は異常なし。でも、次の検査も同じ結果とは限らない。思い切って「いつかやろう」と思っていた、テニスを再開。深呼吸してスクールの扉を叩く。20年ぶりにラケットを握った。ああ、身体でエネルギーを発する、この爽快感。が、20分後に肘に激痛が走り、30分後に足がふらつき、呼吸困難に。どうららテニス肘を発症したようだ。右手は何も掴むことができない。それでも「いつか」を先送りしちゃいけないと、スクールの入会手続き書にミミズのような字で何とか記入。その後、1ヶ月たった今でも寝ているときに超合金ロボットになった夢を見る。全身筋肉痛のせいだ。ロボットは重い体を引きずって叫ぶ「生きているからつらいんだ!」
つらいことをありがたいと思い、「いつか」を実行できることに喜びを噛み締めながら。
 
 文・関千里 絵・田上千晶



人気の投稿