期限切れの言葉



ファッション誌で活躍する後輩の編集者との会話。
「……その人ってカリスマ読者っぽくない?」と私。「先輩、“カリスマ読者”って何年か振りに聞きましたよ」と、冷笑しながら答える後輩。しまった。つい、賞味期限切れの言葉を使ってしまった。恥ずかしい。これからは気をつけなくちゃと反省し、帰り道に実家に寄った。すると、母が「コート、その衣紋掛けに掛けといて」。TVを見ていた父は「あ、そのチャンネル回していいよ」と、私にリモコンを渡してくれた。さらに、「襟巻きしていきなさいよ」。「前掛けどこにある?」など、実家は懐かしい言葉のオンパレードだった。人は一生懸命生きていた時代の言葉から、なかなか離れられないのかもしれない。もうこれは立派なわが家の文化遺産だ、そのままにしておこう。そう思いながら、とっくりセーターの上にちゃんと襟巻きを巻いてみた。

 文・関千里 絵・田上千晶 


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